NEWS

トップページ NEWS 連携パートナー紹介|山川の海のゆりかごを守る会

連携パートナー紹介|山川の海のゆりかごを守る会

NET ZERO PROJECTは地域の脱炭素活動と連携し、社会全体のCO2削減の輪を広げたいと考えています。その連携先のひとつが、鹿児島県指宿市山川沿岸で藻場再生に取り組む
山川の海のゆりかごを守る会」さま。

藻場とは海藻や海草(うみくさ)の生い茂る場所で、魚の産卵場所や稚魚の住処としての役割を果たします。また、光合成をすることによって海中のCO2を吸収することから、藻場再生は気候変動対策としても注目を集めています。同会で活動する川畑友和さんを訪ね、お話を伺いました。


 アマモは海のゆりかご、そして未来を守るもの

指宿市山川は薩摩半島の南端に位置する港町。
鰹節生産が盛んで多くのカツオ漁船が入港する一方、沿岸域では地元漁師による定置網漁業や養殖漁業が行われています。

川畑さんは、定置網漁業を営む漁師です。ここではどのような魚が獲れるのでしょうか。

川畑さん
マアジ、ブリ、カンパチ、カメ、サメ、イルカ……。定置網では“来るもの拒まず”なので、いろいろな魚種が入ってきます。メインはマアジですが、近年は大幅に減りました。代わりにグルクンなど南方系の魚が入るようになってきて。日本人は自分の居住地よりも南の魚を食べるイメージというか、文化があまりないと思います。そうなると、収入につながりにくい現状です。

アマモの生育に影響を及ぼす植食性魚類

川畑さん
アマモはイネ科の海草で、山川の沿岸域は単年性アマモの南限地としても注目されています。冬に芽を出し、春に生い茂り、初夏に花が咲いて種を海底に落とし枯れていく「単年性アマモ:春藻場」と言われています。春藻場と言われる理由は、夏場の高水温に藻体が対応できないからです。なので、世代をつなげるために種の状態で夏を越え冬に芽を出すということを繰り返しています。しかしながら、近年の海水温の上昇によって冬場の水温が高い状態で推移しています。アマモを食べるアイゴという植食性魚類は海水温16℃を下回ると食欲が落ちると言われていますが、冬の水温が高い状態が続くと芽吹いたばかりのアマモは格好のエサに。今はアマモの再生場所を網で囲い、植食性魚類が侵入しないようにしています。

藻場再生を始めて20年近く経過し、今やこの分野の大ベテラン。小学校で環境問題の出前授業を行ったり、県外の藻場再生プロジェクトに助っ人として呼ばれたり、2024年6月まで「JF全国漁青連」の会長を務めたり、YouTubeチャンネルを開設し漁の様子や海の保全活動を伝えたりと、実は川畑さんは何人もいるのではと思ってしまうほどの活躍ぶりです。

川畑さん
子どもたちが大人になったとき、働く選択肢に「海」がなくなることを危惧しています。海は危ない場所だからと子どもを海から遠ざけている気がします。これは時代の流れだと思うのですが、前述したように、将来の職業の選択肢の一つに「海」というものを入れてあげたい! という思いから子供たちが海に触れ合う機会を作る活動をしています。漁師は海の食べ物を陸に揚げるだけじゃなくて、国境監視の機能も果たしているから、漁師の担い手が減るのは国にとっても、よくないことなんです。

水産資源の豊かな海を取り戻し、漁業を魅力的な仕事にすることが目的だった活動は、地球温暖化対策としても有効であることがわかってからは新たな局面に入りました。これまでやってきたことが実は地球のためにもなっていたと知った川畑さんは何を思うのでしょうか。

川畑さん
うちの子どもたちは小さなころからぼくが獲った魚を食べて育ちました。漁師を引退したら誰が獲った魚を食べるのかと不安になります。ぼくら漁師は海の動物性タンパク質の供給源として漁獲することは当たり前だと考えていますが、獲るばかりではダメだと考えています。漁業権を持ち、排他的に海域を利用する権利を主張するなら、海の環境や生態系を守っていく義務も担っていると思います。わかりやすく言うと漁業生産活動をしつつ、豊かな海をつくり、守り、育てていくということです。海だけでなく地球全体に対しても同じことを思っています。数十年後に子どもたちに「なんであのとき(環境問題に対しての活動を)何もやってくれなかったの?」とは言われたくない。だから今、きっちりと義務を果たしたいと思っています。
昨今言われている気候変動問題に関して、決して人ごとではない! 誰かがやってくれるという考えではダメだ! という思いに共感いただき私たちの活動にご参加いただいているNET ZERO PROJECTの方々を含め、多くの方々とサスティナビリティ(悪化させない)ではなく、リジェネラティブ(再生させる)で豊かな海、持続可能な社会の実現に向けて取り組みたいと思います。

長年の地道な取り組みを経て、2023年には川畑さんが理事を務める山川町漁協と鹿児島県、県内企業で「山川の海のゆりかごを守る会」を設立。藻場再生とブルーカーボン(※)の創出、環境学習の機会提供に取り組みます。
NET ZERO PROJECTもこの仲間に入れていただき、2024年9月には種の選別、11月にアマモマットへの植え付けに参加してきました。この様子はまた後日お伝えします。

※ブルーカーボン:沿岸・海洋生態系が光合成によりCO2を取り込み、その後海底や深海に蓄積される炭素のこと(引用元:ブルーカーボンとは | 環境省

最後に、当プロジェクトとの連携についてお話を聞きました。

川畑さん
NET ZERO PROJECTに参加されている方のCO2削減が、ぼくらがやっているCO2吸収につながる流れはすごくいいと思います。こうやって取り上げてもらえるのもうれしい。海のゆりかごのプロジェクトに参加されている企業さんも、リアルな海の状況を伝えることで「漁師だけでなく自分たちもやらないといけないよね」と声を挙げてくれて。ネットワークを広げて、みんなで盛り上げていきたい。鹿児島の海は鹿児島の人や企業で守るのがいいと思っています。

当プロジェクトに参加されたみなさまのCO2削減は、社会全体の脱炭素に寄与し、「山川の海のゆりかごを守る会」さまのようにより良い環境や未来を目指す活動を前に進めます。人と人、想いをつなぐことで、脱炭素の輪を広げてまいります。